このシリーズは、土地が古くから積み重ねて来たもの、その痕跡、断片、気配を「土地の履歴書」”GROUND RESUME”と称して、現代に浮かび上がらせようという試みである。
今回はそのプロジェクトの第二回目の展示となる。
東京という都市は、外国人から見て「活気に満ち、カオスのような状況でありながら、安定させる何からの秩序や構造があり、未来を先取りする不思議な魅力を感じるようだ」と、「東京の空間人類学」で陣内秀信氏は述べている。
それを読んだのは割合最近の事だったが、実際に東京にそれを感じていたのは、もう数年も前から、中野という街と出会ってからである。中野駅前の繁華街から感じるカオス的な雰囲気は20代の私を魅了した。しかしながら、線路を越えれば閑静な住宅地となり、隣接する区画を見ればそこは秩序の象徴たる区役所があった。そもそも、これらは混然としながらも一体化しているのは何故なのか?どのように成り立っているのか?非常に興味深い事だった。
奇遇にも、これまでの中野を対象としたシリーズ「枯れない街」三作では、表現手法は異なれど、それぞれに東京を代表する中野という街の多様性を地面に潜り込むように、しかし外国人のように、距離感を置きながら見つめるものであった。
東京は、江戸時代から地形や自然、特に水源などに配慮しながら開発が行われ、明治・大正・昭和・令和に至り、それぞれの時代の特色に翻弄されながらも、多様な方法で成長を続けてきた都市である。しかしながら、現在の大都市東京を見ると、現代的な超高層建築や、画一的にデザインされつつある風景が巷にあふれ始めているように見える。東京が進もうとしているものとは「正反対」のもの、昔から変わらないものとの「差異、対比」を浮かびあがらせる試みが“GROUND RESUME“の目的である。
前回の“GROUND RESUME”では、現東京23区の「中野区」「渋谷区」「新宿区」(旧東京市35区より「中野区」「渋谷区」「淀橋区」「牛込区」「四谷区」)を撮影、展示した。
今回の“GROUND RESUME Ⅱ”では、プリントワークに改善を加えた。また、現「台東区」 (同上「浅草区」「下谷区」)に撮影範囲を追加・拡張し、28点の作品を展示予定である。
【プロフィール】
喜多研一 46歳
1974年東京都大田区生まれ。1996年帝京大学文学部史学科卒業。IT企業の会社員などを経て写真に出会う。カメラを手にしてから、今まで気付かなかった未知の世界が日常に存在することを実感。39歳で写真を